卵巣刺激方法「ロング法」「ショート法」「アンタゴニスト法」
体外受精をする際、「採卵に向けてどう卵巣を刺激し、卵子を育てていくか」は、妊娠できるかを決める大きなポイントの一つです。
妊娠、出産できる良質な卵子を採卵するために、薬などを使用し卵巣を刺激し卵子の発育を促します。これが「卵巣刺激」です。
日本では「アンタゴニスト法」「クロミフェン自然周期法」など、卵巣を刺激する方法にはいろいろありますが、目的は「妊娠、出産すること」。そのため、どの刺激法がいいかを検討する前に「何個ぐらい採卵すると妊娠、出産できるのか」を考えることが大切です。
たとえ染色体の異数性があったとしても、着床することはあります。しかし、妊娠初期で流産してしまう場合が少なくありません。妊娠初期に起こる流産の50%以上は、染色体異常が原因とされています。多くの人が知っている通り、35歳を過ぎると卵子の染色体異常や老化による細胞質の異常が増えるので、卵子1個あたりの妊娠率が下がっていきます。そのため、高齢になればなるほど妊娠、出産するためにはできるだけ多くの卵子が必要になります。
卵巣刺激にはいくつかの方法があり、得られる卵子数によって「低刺激法」「マイルド法」「高刺激法」の3つに分かれます。
高刺激法とは、注射を連日使い複数個採卵できるようにする方法です。
アゴニスト製剤の点鼻薬とFSH/HMG注射を使い自然排卵を抑えながら、複数の卵子を育てるのが「ロング法」「ショート法」です。点鼻薬を前周期から長く使うのがロング法、採卵周期の月経開始から使うのがショート法になります。
月経3日目からFSH/HMG注射やクロミフェンやレトロゾールの服用で卵子を発育させ、ある程度大きくなったら、アンタゴニスト製剤を注射し排卵を抑える方法が「アンタゴニスト法」です。
どの方法にもメリット・デメリットがあり、また、同じ年齢でも人によって相性の良い刺激方法は異なります。
次に各方法のメリット・デメリットを説明していきます。
ロング法
《メリット》
- ・前周期から薬でコントロールできるため、下垂体ホルモンを完全に抑制してから排卵誘発剤を使用する為、卵胞発育が均一になる。
- ・排卵してしまう可能性がほとんどない。
- ・採卵日のコントロールが容易。
《デメリット》
- ・強い刺激で多くの卵子を確保できる方法ですが、AMHが高くPCOSなどが疑われる方の場合OHSSになる可能性が高くなる。
- ・高齢の方や卵巣内に残っている卵子の数が少ない方は注射の反応が悪くなり卵胞が育たない可能性がある。
- ・注射量が多く、点鼻薬が追加で必要となるため費用負担が多くなる。
- ・前周期の避妊が必要
ショート法
《メリット》
- ・アゴニスト開始直後2~3日間は、下垂体ホルモンのフレアアップ(一度押さえ込まれることによりリバウンドをおこすこと)を卵胞発育に利用できる。
《デメリット》
- ・卵子成熟法にアゴニスト製剤を使用できず、HCGを使用する為、OHSSになる可能性がある。
- ・卵巣予備能が低い場合は、抑制が効きすぎて卵胞発育が悪くなることがある。
- ・薬の影響が次周期に残りやすくなります。
アンタゴニスト法
《メリット》
- ・はじめの段階から下垂体ホルモンの抑制をしないので、ロング法・ショート法に比べ卵胞が発育しやすい。
- ・OHSSのリスクがある場合は卵子成熟をHCGを用いずにアゴニスト点鼻薬で行うことができます。
《デメリット》
- ・アンタゴニスト製剤を使用しても稀に早期に排卵してしまうことがある。
- ・アンタゴニスト製剤が高額なため、卵胞発育が遅い場合は費用負担が多くなる。
初回は年齢やホルモン値などを参考に、最も合いそうな方法を選択しますが、実際にやってみなければわからない部分も多く事前に予想した反応にならないこともあります。
院長 保坂 猛
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